― 現在、御社は介護業務ソフトを開発しているそうですね。開発のきっかけは何ですか？

　私の母が軽度の認知症になったことがきっかけです。認知症になった母の姿を見て、私は介護の問題を自分自身の問題として考えるようになりました。それまで記憶のしっかりしていた母が、ほんの数分前の会話すら忘れてしまう。この現実は非常につらかった。

　でも、現実を受けとめなければいけません。いったい私に何ができるのか？私はその答えを探すため、介護について学びました。知人が運営する介護サービス事業所にお願いし、訪問介護の現場を間近で見せてもらったんです。そして1週間ホームヘルパーの仕事に付き添わせてもらいました。この経験を通して、私は介護の大変さを目の当たりにしたんです。入浴や排せつなど、日常生活のあらゆる場面でお年寄りには介助が必要でした。また、他にも大きな問題がありました。それはホームヘルパーの事務作業がとても非効率だったことです。

　たとえば、毎日の報告作業。ホームヘルパーは一日の業務内容を、その日のうちに所轄の事業所へ報告しなければいけません。その報告作業に非常に手間がかかっていました。まず、お年寄りの入浴や排せつを介助するたびに、手書きで報告書に記入。そして一日の業務が終わった後、その報告書の内容をエクセルやワードファイルに打ち込んでいたんです。つまり、二度手間になっていたわけです。この煩雑な報告作業にホームヘルパーは毎日2時間以上も費やしていました。私は「IT化を進めれば、もっとホームヘルパーの手間が軽減できる」と確信しました。

― 介護業界の現場ではIT化が進んでいなかったわけですね。そもそも、介護業界向けのソフトウェアはなかったのですか？

　ホームヘルパーの報告書やシフト表など、業務データを管理できるソフトウェアは個別にありました。しかし、あらゆる業務データを一元的に管理できる介護業務ソフトは見つからなかったんです。そこで私に使命感が芽生えました。「世の中にないなら、自分でつくるしかない」と。そして、当社が新事業に乗り出したわけです。