― なにが起こったのですか。

　6,000万円の詐欺に遭ってしまったのです。当時は訪日中国人客によるインバウンドバブルで、人気商品のなかには仕入れすら難しいものもありました。そうしたなか、ある人気商品について「在庫があるよ」と声をかけてきた問屋が現れたのです。その商品を仕入れたいという中国のバイヤーから代金を前払いでいただき、それを問屋に振り込みました。しかしその後、商品は届かず、問屋とは連絡が取れなくなってしまいました。私は取り込み詐欺に引っかかってしまったわけです。起業するまでは会社に守られていたところもあったのかもしれませんが、「自分の手元にないモノを売り買いする」という、卸売業にひそむリスクを痛感しました。

　この出来事を機に、私は自社のビジネスでやりたいことを改めて深く考えることになりました。その末に決断したのが、lojusのメーカーへの転身です。メーカーであれば、自らこだわって開発し、心からおすすめする商品を、世の中へ直接、提供できる。そんな魅力をもつ事業に、社運を賭けることに決めたのです。

― メーカーへの転身は順調に進んだのですか。

　はい。卸売業から距離を置いたことで赤字に苦しんだ時期もありましたが、新しい事業を絶対に成功させてみせようと、緻密な事業計画を立て、商品開発に専念しました。『MAPUTI』の開発に当たっては、「私が世界でいちばん好きな香り」をつくれるよう、調香師と1年かけて理想の香りを追求しました。

　人にも恵まれました。私が詐欺に遭ったとき、それまでお取引をしてくださっていた多くの諸先輩方が、幅広い人脈から多くの人を私に紹介してくれました。そのなかの一人には、現在の中国事業のパートナーもいます。彼は、「卸売ではなく、オリジナルのブランドを育てて売っていこう」と、メーカーを目指す私を力強く支えてくれました。彼との出会いがあったおかげで、早い段階で中国進出を果たすことができ、メーカーとして非常に大きく成長できたと思っています。

― メーカーとして、現在はどのような目標を掲げていますか。

　国内では、実店舗1万店での販売体制確立を目指し、デリケア商品のリーディングカンパニーとして、その地位をより強固なものにしていきます。海外では、コロナ禍で途切れた現地とのリレーションのつなぎ直しを急務とし、各国・地域ごとに売上を増やしていく方針です。

　このほか、当社がメーカー事業で蓄積してきた経験や知見を活かしたOEM事業にも力を入れていきます。この事業はこれまで、顧客の口コミだけで売上を伸ばしてきており、現在、当社売上全体の15%ほどを占めています。今後はこの事業を本格的にテコ入れすることでその比率を拡大させ、事業の多角化を進めていきます。

― 今後のビジョンを聞かせてください。

　今いる社員が「大切な人を大切にできる」ような会社であり続けることが、当社のビジョンです。先に話したような、国内外での数値的な目標やそれを達成するための施策はもちろんしっかりと考えていますが、会社の規模を拡大すること自体が私の目的ではありません。それらはいずれも、ビジョンを実現するための小さなゴールにすぎないと考えています。かつての私が恋人の余命宣告で覚えたような無力感を、lojusの社員たちには絶対に感じさせたくありません。仕事としてのやりがいや、人としての幸せを社員に提供できることが、当社がもっとも優先することです。