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ニッポンの社長 > インタビュー > 編集者オススメ記事 > エステー株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長(CEO) 鈴木 喬

※下記は経営者通信35号(2015年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

反対する気をなくさせる 一世一代の大芝居

― スリム化しただけでなく、売上を伸ばしていますね。その秘訣を教えてください。

 就任後2〜3年のうちに成功事例をつくれたことです。

 コンパクトで筋肉質に変わるだけでは、会社は元気になりません。そこで勝負に出たんです。1年間に発売する新商品は消臭芳香剤の「消臭ポット」だけにしぼると。みんな反対しましたよ。毎年、60アイテムくらい新商品を出していましたから。

 仕方がないので、全国に200名ほどいる営業スタッフを集めて大芝居を打ったんです。「朝方夢を見た。女神が出てきて『鈴木喬よ、この消臭ポットでエステーは救われる』と3度言った。明け方の夢は正夢だから大丈夫だ」。

 社員もきっと「ダメだ、このおっさん。これは途方もない大バカものに違いない」と感じたでしょうね。あきらめて「消臭ポット」を売るしかないと。

 結果は大ヒット。それまで1年間に300万個売れたらヒットといわれていましたが、「消臭ポット」は初年度で1000万個の目標を達成した。新任の社長は社員の心をつかまなければいけません。次に卸や小売の人の心をつかんでいく。そのために、まず新製品を当てなきゃダメなんですね。

― なぜ売れたのですか。

 機能性を重視した消臭剤ばかり並んでいるなか、ひときわ目立つポット型のカワイイ商品だったからです。液体を使わず、消臭ポットは透明感のあるゼリー状。手にとってみると、ぷるぷる震える。消臭剤を買うのは、圧倒的に女性だから、「絶対に売れる」と。

 開発からネーミング、テレビCMの企画づくりまで、自分が率先垂範してつくっていった。その後もいくつか、同じようなやり方で、うまい具合にとんとんと当たったんですよ。たとえば冷蔵庫のなかのにおいをとる「脱臭炭」。いまではアメリカのウォルマートのほとんどに入っています。また、お米の防虫剤「米唐番」は世界シェア75%を獲得しています。

商品ではなく お客さまをつくっている

― 商品開発において「グローバル・ニッチ・No.1」を掲げています。どうやって世界トップシェアの商品を生み出しているのですか。

 市場を定めて、新商品を生み出し、固定客をつくっています。エステーは「消臭ポット」や「脱臭炭」をつくっているのではなく、お客さまをつくっている。そのために戦う市場を選びます。

 いくら私が大ボラを吹いても、当社は年商約500億円の中堅企業です。それに対して、国内最大の同業者である花王さんは約1.4兆円、世界最大の同業者P&Gさんは約10兆円。こんなライバルとまともに戦ったら、まずやられてしまいます。だから、大手の参入しにくい市場をねらいます。たとえるならメダカがいる池に入って、それをエサにして小さな池のクジラになるようなイメージです。

 そこに革新的な商品を開発して投入します。なにが当たるなんてわからないので、昔から開発やマーケティングの社員と飲んで「こんなものをつくれ」とよく居酒屋で話していましたね。

― 「絞りこみと集中」という戦略で大企業と勝負しているのですね。そこで勝つために重要なポイントはなんでしょうか。

 損切りです。とにかく見切らないと命取りになります。勘をきかせて、危険な場所に行かない。ヤバいと思ったら、すぐに逃げる。役員会で「必ずこれをやれ」といったことを翌週には撤回することだって必要です。

 この間も怒られたね、「引き返し不能でございます」なんて。「引き返し不能っていったって、オレが逃げろというんだから逃げろ。こないだ『まだまだいける』っていったのは、オレと同じ名前と顔の別人だ」なんて、とぼけて返したんだけど(笑)。

 ときには、売れている絶頂期に撤退することもあります。新型インフルエンザが大流行していたときのこと。マスクが飛ぶように売れました。増産につぐ増産。そのときに「これは危ないな」と。それですぐ「撤退しろ」と命令したんです。社員は猛反対でしたよ。でも、すぐにインフルエンザ禍は終息。マスクの大量返品で苦しむ会社が続出するなか、当社は無傷ですんだんです。

著名経営者

  • 伊那食品工業株式会社

    塚越 寛
  • 株式会社スタジオジブリ

    鈴木 敏夫
  • シダックス株式会社

    志太 勤
  • エステー株式会社

    鈴木 喬
  • GMOインターネット株式会社

    熊谷 正寿
  • 株式会社IDOM(旧:株式会社ガリバーインターナショナル)

    羽鳥 兼市

プロフィール

  • お名前鈴木 喬
  • お名前(ふりがな)すずき たかし