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株式会社セキムラ  代表取締役社長 新沼 直哉

受け継がれてきた理念と品質、自信をもって世の中に示したい

現下の新型コロナウイルス感染拡大が社会に大きな混乱をもたらすなか、最前線で戦う医療従事者の高度な対応力や、その現場を支える日本の医療機器業界の高い技術力は改めて脚光を浴びている。そうした同業界で60年にわたりその高い品質を認められ、広く支持を集めてきた老舗メーカーがある。歯科向け医療機器の製造・販売を手がけるセキムラ

※下記は経営者通信55号(2020年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

入社当時、社内は閉塞感に包まれていた

― 今年で創業60年を迎えるセキムラの事業内容を教えてください。

 当社は、おもに歯科向けに展開している笑気吸入鎮静器の製造・販売を中心に、除細動器や生体情報モニターといった医療現場向けの各種医療機器を扱っています。なかでも当社が創業時から手がけてきた笑気吸入鎮静器は、治療の際に患者さんの痛みを緩和する優れた製品であり、私自身、その効果に大きな可能性を感じているものです。現在、当社が国内唯一のメーカーとなっており、品質や性能には重い責任を感じながら、普及に力を入れています。

 また近年は、医療分野からヘルスケア市場へとターゲットを広げ、医療現場向けのみならず、感染予防製品といった一般消費者向け製品の展開にも力を入れているところです。

― そうした業容の拡大は、新沼さんの方針ですか。

 はい。5年前に社長に就任した当時から、社内で長く受け継がれてきた「安心・安全・衛生」という価値観には自信をもっていましたから、それを広く世の中に提示することは私の使命だと考えています。

 それまで当社は、長年製造してきた笑気吸入鎮静器という看板製品への依存度が高く、老舗メーカーとして品質へのこだわりはどこよりも強い反面、新しい事業展開には消極的。とても保守的な会社と言えました。しかも、頼みの笑気吸入鎮静器市場も縮小傾向をみせはじめ、将来への危機感も社員のあいだに蔓延。義父が先代である2代目社長であった縁から、結婚を機に薬剤師から転身し、私が入社した2010年当時、社内は閉塞感に包まれていました。

理念に立ち返り、新たな命を吹き込む

― 会社の転機はどのようにして訪れたのでしょう。

 2015年5月に社長交代があり、私が3代目の代表取締役社長に就任したのが、会社としても私個人としても大きな転機になりました。この直前、会社は大変な危機に見舞われていました。同年の3月に創業者の関村吉男が不慮の事故で死去し、社員一同、大きなショックに包まれました。そのうえ、四十九日当日に本社工場で火災が発生し、2階部分が全焼。どん底に突き落とされるような混乱のなかで、社長を引き継ぐこととなったのです。

― そうした困難のなかで、新沼さんはなにから着手したのですか。

 まずは、目の前の業績を改善させることに精一杯で、債務改善や売上拡大に奔走していました。しかし、最初の2年は成果が上がらず、ただでさえ若く経験の浅い社長の私に対する社内の反発もあり、なかなか周囲の信頼を得られませんでした。社内の士気は下がり、当時の退職率は85%を超える時期も。あるとき、上司が部下に会社の将来を嘆く場面を目にしたことがありましたが、あのときは本当につらかったですね。

 そんな社内の光景を目にしながら、自問自答や試行錯誤を繰り返すなかで思い至ったのが、私自身が経営の「根本的な目的」をあいまいにしていたということ。当社には創業のころから掲げられてきた「明日の医療に奉仕する」という理念がありました。この理念に立ち返り、創業者や先人たちが事業にかけてきたこの想いに、今を受け継ぐ我々なりに新たな命を吹き込むことで、会社の目的を明確化することを決めたんです。

― どういうことでしょう。

 たとえば、我々が奉仕の対象としてきた「医療」とはなにかをみつめ直したとき、果たして医師が行う医療行為だけなのだろうかと改めて問う。広く、人々の健康増進に寄与するものと捉えた場合、ヘルスケア分野も我々の技術や知見を提供すべき市場なのではないか。北米の医療機器メーカーとの業務提携もきっかけに、近年除菌シートや蒸気滅菌器といった一般消費者向け製品の展開に力を入れているのは、そのためです。

 また、「奉仕」という言葉についても、私利私欲なく社会や会社の目的に尽くすことだと定義。「安心・安全・衛生」という当社が掲げる価値観を世の中に届けることを会社の明確なミッションと位置づけました。

― 利益の追求だけが事業の目的ではないと。

 ええ。この理念やミッションを改めて全社員と確認したうえで、それを実現するために、一人ひとりがどう行動すべきか、会社としては個々の社員にどんな期待を寄せているのかを直接面談を重ねながら伝えるようにしたのです。このミッションのもとで目指すのは、ともに働く社員が幸せや成長を実感でき、誇りをもてる会社であること。この理想も、事あるごとに直接語るようにしています。会社の考えがわからないから社員は不安になるんですよね。そこからは社員の目の色が変わり、行動自体も徐々に変化していきました。

自分たちのやっていることは「間違っていないんだ」

― 社員はどのように変化していったのでしょう。

 まず、主力の笑気吸入鎮静器の営業が大きく変わりました。この笑気吸入鎮静器は、治療に伴う痛みを緩和し、患者さんの精神的・肉体的負担を抑える効果が期待できる技術として、これまでも導入する医療現場からは高い評価を受けてきたものです。そうした自社の製品の社会的価値を改めて捉え直すことで、営業は使命感をもって提案できるようになりました。製品のメカニズムを説明し、その効果を体感していただく過程で、新しい知見を得たお客さまから「こんなものがあるとは知らなかった」と、感謝の言葉をいただく場面がすごく増えたと聞きます。

― それはうれしいことですね。

 社員たちが自らの存在意義を改めて確認し、自分たちのやっていることが「間違っていないんだ」ということを実感できるようになった。結果、今では歯科だけではなく、眼科や美容整形、小児科や救命救急など広く医療現場で評価が高まっており、需要を伸ばしています。

 また、一般消費者向け製品も、当社の厳しい品質管理の目で厳選したものだけに、営業が自信をもって提案してくれ、事業の成長につながっています。この事業はゆくゆく分社化して伸ばしていく考えなのですが、担当社員からは私の構想を上回る野心的な計画が打ち出されています。

― むしろ、新沼さんのほうが背中を押されている。

 そうなんです。一時期は85%もあった退職率は、みるみる減少し、会社の将来を担ってくれそうな若手の有望人材も成長してきてくれています。それだけではなく、期間限定のパートタイマーとして働いてくれていた人材が、自ら期間延長を希望してくれるようにもなりました。「会社の文化や雰囲気がいいから」という理由を聞いたときは、会社の変化を改めて実感できましたね。

新しい歴史をつくる

― 今後の経営ビジョンを聞かせてください。

 まだまだやるべきことは残っています。医療機器にはさらなる付加価値を追求し続けますし、これまで武骨とも言えた医療現場にオシャレの要素を注入し、現場にワクワクを提供していく試みも考えています。

 ただし、こうした新しい歴史をつくろうと果敢にチャレンジできるのも、会社の根底に、セキムラの歴史のなかで、決して失われることがなかった「品質へのこだわり」や「妥協を許さないプロフェッショナル意識」があったからこそ。「明日の医療に奉仕する」という理念をしっかりと受け継ぎ、世の中に求められる価値を提供していく姿勢は、変わらずもち続けていくつもりです。

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    • コーポレートサイト
    • 設立
      1960年10月
    • 資本金
      1,000万円
    • 売上高
      7億5,000万円(令和2年3月期)
    • 従業員数
      42名
    • 事業内容
      歯科医療を中心とした医療機器・医療用品の製造・販売など

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プロフィール

  • お名前新沼 直哉
  • お名前(ふりがな)にいぬま なおや